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ハディース(預言者ムハンマド[彼の上に祝福と平安がありますように]の言行録)
ハディースとは、アラビア語の言葉ですが、「話すこと」を意味します。宗教的な概念としては、預言者ムハンマド(彼の上に祝福と平安がありますように)の言行(慣行)録を意味します。様々な事柄に関する、預言者ムハンマド(彼の上に祝福と平安がありますように)自身の語りとその行いに関する伝聞の集成です。イスラームにおいて、クルアーンに次ぐ根本文献として認めらています。しかし、アッラーの言葉であるクルアーンではありません。 預言者ムハンマド(彼の上に祝福と平安がありますように)の生前中、弟子たちによって、クルアーンの章句と区別され、預言者自身の言葉として記録されていたという形跡もありますが、預言者の死後は、クルアーンの編成の妨害にならないように、西暦9世紀半ばまで、集成されませんでした。蒐集活動が盛んになった10世紀まで口伝で受継されました。10世紀以降は、蒐集と編成(書物化)が行われました。次に、伝承の信憑性を分かるために、伝承者の性格と伝聞の内容の検証が盛んになり、様々な方法が発明されました。イスラーム学の特徴の一つでもあるそれらの方法は、ハディース偽造の防止と偽ハディースの排除のために作られています。
例えば、伝承者の信用性を検証する方法があります。その場合は、伝承者自身の性格、年齢、記憶力、生きた時代等が調べられています。そうすることによって、伝承者の中から、 物語作者の伝承者、異端的な思想の信奉者の伝承者、老齢による記憶力が低下した伝承者、前世代との対面が不可能な伝承者が取り除かれました。それらの伝承者によるハディースは、「弱ハディース」と呼ばれました。そのようなハディースは、一部の学者によって完全に偽造と否定されたこともありましたが、もう一部の学者にとって、その内容に正統な部分も混ざっている可能性があるという理由で容認されました。しかし、「弱ハディース」は、イスラーム法を作るときは採用されないことに全ての学者が合意しています。
もう一つの方法としては、直接、伝承の内容の信憑性(預言者によるか否か)を問う仕方があります。例えば、特定な人、地域や物質等の優越性に関するハディースは信憑性が低いとされています。そのように、ハディースの伝承者の信頼性と内容の正確さによって、それぞれのハディースが評価されています。上記において指摘された「弱ハディース」の他に、真正、良好、薄弱、偽造ハディース等があります。 ハディースの最後の段階は、その内容の解釈とイスラーム法での採用です。実際、現代のムスリムの信仰と礼拝行為においては、預言者ムハンマド(彼の上に祝福と平安がありますように)からの伝承とそれに関する見解が適応されています。例えば、一日五回礼拝の義務は、クルアーンにおいて、様々なところで記されていますが、いつ、どのようにするかということは明記されていません。その全てが、預言者ムハンマド(彼の上に祝福と平安がありますように)からのハディースに基づいて定められています。
ハディースは、帰される対象によって様々な種類に分けられています。「聖ハディース」は、その内容がアッラーから、表現が預言者からなるハディースのことです。預言者ムハンマド(彼の上に祝福と平安がありますように)は、クルアーンの章句と別に、「アッラーはこうおっしゃる…」と言ってアッラーから何らかの言葉を、自らの表現で伝えることがありましたが、イスラーム学者たちは、それらの伝聞を「聖ハディース」と呼んでいます。「預言者のハディース」は、内容と表現が、共に預言者に帰するハディースのことです。
ハディースの形成は、伝承の鎖と伝承として二つの要素を含んでいます。伝承の鎖においては、誰から誰にと、伝達者の名前がずらりと並んでいます。 次に来るのは、伝承の内容です。以下に一例をあげましょう。
【伝承の鎖(下線の部分は人名)】アブドゥッラー・イブン・ユースフが私たちに話した。彼は、「私たちにそれをマーリクが報じた」と言った。マーリクは、アブー・ザナードから、(アブー・ザナードは)アーラジュから、(アーラジュは)アブー・フライラから受継いだ。アブー・フライラによるとアッラーの使徒は次のようにいった。 【内容】信徒たちの重荷にならないとしたら、礼拝の度ごとにスィワーク(楊枝)で歯を磨くことを私は彼らに命じるであろう。
このようなハディースが集められている様々な本があります。主なハディース集としては、「六正集」と呼ばれるものがあります。中でも、ブハーリー(870年没)とムスリム(875年没)のそれぞれによる『真正集』が最も権威高いものとされています。それらのハディース集の日本語訳も存在しています。ブハーリーのハディース集の和約は、(牧野信也訳 『 ハディース―イスラーム伝承集成―』中央公論社.)です。ムスリムのハディース集は(磯崎定基、飯森嘉助、小笠原良治訳『日訳サヒーフ・ムスリム 預言者正伝集』日本ムスリム協会)です。 ハディースを読んでみると様々な内容がありますが、大きく言えば、その内容を、宗教上の義務(礼拝・戒律)、道徳(公的・私的な振舞い)、来世のための準備として三つにまとめることができます。 |